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幾日か過ぎて、夏の終わりの雨が公園の木々や、道を濡らす午後、サーカスの広場の手前の公園の屋台のカフェスタンドで傘を閉じる学校帰りのアリッサ。カフェスタンドのオーナーのマシューが先に声をかけた。「こんにちは、アリッサ。預かってるよ。ノートを。」「ありがとうございます。」優しい口調のマシューは60代の半ばくらい。オシャレなシャツとベストにエプロンをして、グレーの髪にベレー帽をチョンとかぶっている。「なかなか会えないね。」バートとアリッサは、アリッサの下校時間に合わせて、20分だけ、ここで待つ約束をしている。どちらが来れなくても恨みっこなしの約束。会えない時は、来れた日にマシューにノートを託す。アリッサが学校で分からなかった所を書いておくと、バートが解き方のヒントや、参考になることを書いておいてくれる。メッセージもちょこっと書いてある。「忙しいから、仕方ないです。それなのにいつもちゃんと丁寧に、書いてくれてる。」アリッサはノートをパラパラと繰りながらちょっと寂しそうに首を傾けた。「ホットココア、特別にご馳走するから、お飲み。」マシューはニコッとして、コースターをアリッサの前のカウンタースペースに置く。「あ、いえ、そんな。お支払いしますから。」恐縮するアリッサに「いいからいいから。おじさんは可愛い子に弱いの。」冗談ぽく言うと、奥にある棚からカップを取りながら、サーカスのポスターを見て「あっ!そうだ、アリッサ、バートがとうとうサーカスの本番の舞台に出たらしいね。聞いてるかい?」「いえ・・。聞いていません。そうなんですか?」「うん。ああ、まだ新米だし、お試しみたいな口ぶりだったから、ちゃんといつも出られるようになったら君に言うつもりだったのかな。」ああ、というように納得するような表情をして「だから、忙しいのかな。」アリッサはサーカスのある広場へ続く道をボンヤリと見た。「はい。ココア。」マシューの声でカウンターに向き直り、「あ、はい。じゃあ、ご馳走になりますね。」優しい心遣いの味のホットココアを飲みながら、几帳面なバートの字が並ぶノートをめくり、読む。アリッサはココアを飲み終えるとマシューに「ありがとうございます。ごちそうさまでした。」お礼を言って傘を広げると公園の出口の方向ではなく、広場の方へ向かおうとするのを見て「行くのかい?」柔らかく微笑んでマシューが声を掛けると、照れ臭そうに少し笑ってからだまって頷いて歩いて行った。(行ったって、会えないのは分かってるけど・・・。)アリッサの足は勝手に動いていた。
サーカスのお客さんが入る入り口はもちろんまだ閉まっていて人の気配がない。雨だから外で体を動かす者もいない。少し周辺を歩いていると、バックヤードのゲートが見えて、誰かが買い物から帰って来たようで、紙袋を抱えて足早に入ろうとするのを「すみません!あの!」勇気を出して声をかけて引き留めた。引き留められたのはマックスだった。(まさか・・・お呼び出しって・・わけにもいかないし・・でも・・。)しばらくアリッサが黙ってると「ん?誰かに用?」マックスがとっつきやすい明るい口調で、緊張してるように見えるアリッサに話しかけた。「あっ。その・・。明日のチケットを売ってください。」「えっ?今日のじゃなくて?明日の?」マックスが聞き返すと「はい・・私、学生ですし、親に言わずに夜出かけると心配をかけるので、今夜話してから、明日、観たいんです。」マックスは笑って「ああ、そういうことね。OK。1枚でいい?」「はい。」「ちょっと待ってて。」マックスが中に走って行って戻るまで、アリッサはずっとドキドキとしながら雨音を聞いていた。

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by kigaruni_eokaku | 2018-12-11 21:10 | 物語 | Comments(0)
その夜の公演終了後、エディーとディアナがサラの一件を団長ジムに報告に来ていた。サラはケイトが寝かし付けてくれている。「そんなことがあったのか。ケガがなくて良かったよ。」ジムは安堵のため息をついた。エディーが「申し訳ありません。」頭を下げるとジムは「いや。サラが初めてじゃないから。子供の時からここにいる子たちはみんな何かしらやらかそうとする。ただ、大記録だがな。ブランコ用の足場のてっぺんまで行ったのは見たことがない。」そう言って笑う。「ごめんなさい。お父さん。」ディアナも謝って「バートが来なかったら、どうなっていたか。私たちだと、上がるよりも前に、声をかけただけで上にいるあの子が身を乗り出して、じっとさせるのが大変だったの。バートが私たちの代わりに上まで行くと言って、連れて降りてくれたの。」「バートがか?」「うん。普段からあの子と仲良しで、面倒を見るのが上手だから。」「そうか、なるほどな。」感心してから一呼吸置いて、「実は、少し前から考えていたんだが、エディーとディアナには、つい私も色々頼ってしまって忙しくさせていたと思ってな。広報的な仕事まで手伝ってもらって。そこで、それを、バートにやらせてみようかと思ってるんだ。もちろん最初は私も一緒にやって教えるし、お前たちにも助言してもらいたいが。バートの売り始めたキャンディー、結構高いのによく売れるようになって来てるみたいだしな。」ディアナが「ええ。ソフィアもそう言っていたわ。あのキャンディーは、大学生とか、大人にも買う人が多いって。綺麗だもんね。」「そうらしいな。うまく売っているようだ。バートには、本業のサーカスの方にもそろそろちゃんと出てもらえるようになりそうだし、宣伝やお客さんについて考える気持ちを持ってるようになったら、もっとプロ意識が身についていくかとも思ってる。キャンディー売りは、ティム達、子供らにも話して協力してもらって、本格的に動けるようになってもらいたいんだよ。」エディーもうなづいて、「そうですね、バートには人を楽しませようって気持ちがすごくあるし、パフォーマンスも良くなって来てるし。あ、団長、実は、もう一人、デビューをお願いしたい者が・・・。」言いにくそうに「サラに、何かさせてやれないかと。」ジムは明るい表情で「そうだね〜。いいだろう。自覚を持ったら、無謀ないたずらはしなくなるだろうし。」ディアナも申し訳なさそうな顔をして「ちゃんと目を離さないように、演技も心構えも教えますので。」「じゃあ、やってみなさい。サラだけでなく親である君らも戦いだよ。がんばってな。何をさせるかは、二人で決めて、出来たら見せに来てくれ。」「分かりました。」二人は真剣な面持ちで団長を見た。「お父さん、ちょっといいですか?」ソフィアの声がして入って来た。「私もお話があります。」「なんだ。改まって。」「私も・・、又、何かやらせてほしい。」ディアナがソフィアの方に歩み寄り、心配して「えっ!?大丈夫なの?あなた、身体は?」「うん。お医者さんは無茶をしなければOKって言ってくれてたし、あとは、私の気持ちしだいって。」ジムは優しい顔で「その気持ちがやってやると思えるようになったか。」「はい。」スッキリした様子でそう言うソフィアに「わかった。それじゃあ、ソフィアはマックスと、何をやるか相談しなさい。ポップコーンは当面はケイトに代わりをしてもらおう。くれぐれも無理をしないようにするんだよ。ディアナ、時々様子を見てやってくれ。」「はい。」
父親と姉夫婦と分かれて、外の風に当たると、ソフィアは一人にっこりとして勢いよく歩き出した。

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by kigaruni_eokaku | 2018-12-09 19:36 | 物語 | Comments(0)
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(僕は、いつだって、ずっと愛されてた!)自分の親“達“がどれくらい自分の心配をしたのだろうと改めて気付き、考えているとどちらの両親にも感謝しかなく、(幼い時に僕を失った団長とケイト、僕がいなくなってもきっと心の中にはいつも置いてくれていただろう。それから戸籍上、これから何らかの隔たりと共に僕を失う育ててくれた両親、その両方がずっと僕の身を案じてくれていたんだ!)膝の上のサラの温もりが伝わって来る。「行こうか。ごめんね。お待たせ。」「もう泣かない?大丈夫?」「うん。泣かない。」サラの頭を撫でてキスをするとバートは「エディー、その、上のブランコゆっくり下ろしてここに合わせてくれない?」エディーが「いいけど、大丈夫か?」「うん。多分ハシゴを降りるより安全だよ。僕とサラが乗ったらそっと徐々にネットの上に下ろしてほしい。」エディーがブランコをバートとサラのそばに寄せてくれ、バートはそのままそうっとサラと2人ブランコに座って「オッケー!下ろして!」数分後に地上に降りるとディアナが「サラ!どうして!いたずらじゃ済まないのよ。」サラの小さな両肩をつかまえ怒っている。バートが間に入って「ディアナ、サラはすごく反省していたから、もう叱らないであげて。」バートに黙ってうなづきながら、エディーが「サラ、謝りなさい。ママと、マーメイドと、バートに。」サラはうつむいてからみんなの顔を見て「ごめんなさい」それからまたエディーが「何がごめんなさいか分かってる?」「うん。もうグランパが、上って良いって言うまで絶対にあそこには上がらない。」か細いけれどしっかりした口調でそう言った。「よし。そうだ。分かったな。絶対だぞ。その代わりに、今度ちゃんとお前に、パパとママと一緒にお客さんの前に出られるように何か教えてやるから。」そう言うと自分を見上げていたサラを抱き上げて、「どこもケガしたりしてないか?」「うん。パパ、ごめんね。」サラがそう言うと、エディーは愛おしそうに抱きしめた。ディアナは緊張の糸が切れ、脱力して涙を流しながら「マーメイド、バート、ごめんね。ありがとう。」言うとエディーと娘の所に行った。
マーメイドが、深いため息をつくと、椅子に座り込む「どうなるかと思っちゃったわ。親って大変ね。」バートも隣に座って「本当だね。でもすごいよね。何もかもより、大事なんだから。子供の将来のためには優しいだけじゃダメだし。」「私のパパはもう死んじゃって、いないから、サラが羨ましいわ。」「そうなんだ。寂しいね。」「そうよ。私のこと、本当に愛してくれてみんなに自慢してくれていたんだから。」「そっか。素敵なお父さんだったんだね。」「でも、私がサーカスのスターになったのは、見てくれたし、すっごく喜んでくれていたから、これからも私がお客さんに拍手をもらえば、きっといつか会えた時にまた褒めてもらえると思うと、寂しくないし、がんばれるのよ。さ、今夜の稽古をしなくちゃね。じゃあね。」ブラウスのフリルを揺らして、テントの外に出て行った。
バートは、ジャックが納得して、と話していたことがすこしずつ、分かり始めた気がしていた。

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by kigaruni_eokaku | 2018-12-02 15:16 | 物語 | Comments(0)
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「マーメイド、ごめんね。ティムが学校行く時に顔が合ったら、マーメイドがサラを見てくれてるって言ってたから甘えてしまって。ちょうど戻る時に、旅行会社の人が団体客を受け入れてくれるかって訪ねて来たもんだから話してて遅くなって。見ててくれてありがとうね。で、サラは?」ディアナが周囲を見る。「あ、あ、あ、あのね、ディアナ、それがね、サラは・・、その・・。」言いにくそうにわなわなとマーメイドがつぶやいていると、「マーマー!パーパー!ここだよ〜!」上空に娘の声。エディーが声のする方を見上げて「サラっ!おまえ、なんで、そんなとこに!?」サラは上でまた身を乗り出す。ディアナが顔色を無くす。マーメイドが申し訳なさそうに「ディアナ、ほんっとにごめんなさい。持ってた雑誌が落ちたから拾って、顔上げたらあっという間に居なくなってて、気づいたらあそこに。」「やめなさい!サラ、じっとして!ママがすぐ行くから。」サラは手を振って立ち上がり、笑いながら「ママー、見て〜サラもね、ママみたいに出来るよ。」少し離れた所にあるブランコを指差す。心配して梯子の方に行こうとするディアナをエディーが制止して「おまえが話しかけたら、サラがますます危ないことをしそうだ。ちょっと待ってろ。」「エディー・・・でも、早くしないと・・・。」「サラー、良い子だから、パパの言うこと聞けるか。」「うん。できるよ。サラは良い子だから。」「よし。そこで、ちゃんと座るんだ。足を下ろして。」「わかった。」サラは言う通りにする。「それから、その、横のポールを両手でしっかりと持ちなさい。」「これ?」「そうだよ。そのまま、じっとして。」一生懸命にエディーがサラがはしゃがないように話しかけていると、「ただいまー。どうしたの?」テントの中にジャックとのランチから戻ったバートが3人に話しかけたのを見て、サラがまた立ち上がってしまって「バート!見てっ!サラ、すごいでしょ!」「えー!?なんで?サラっ。どうしちゃったのさ。危ないよ!」エディーが「勝手に上がってしまったんだ。サラの体重だと、非常用のネットもかえって危なくて役に立たないかもしれないから下にマットも用意するよ。」そう言ってから、ため息をついて、もう一度、サラに優しく「サラ。さっきパパが言ったように座っていなさい。パパがすぐ行くから。」サラは喜んでしまい座りそうもなく、「パパ、ブランコ乗せてくれるの〜?」どんどんテンションが上がってしまう。マーメイドがおろおろして、「ダメよ・・。あの子、あれ以上動いたら、足を踏み外しちゃう。」バートがマーメイドに「僕が行くよ。みんなはさっきエディーが言ったように念のためマットを用意しといてよ。」それからはエディーの方に向き直り、「エディー、僕がサラの所に上がってもいいかな?ちゃんとあの子を連れて降りるから。」エディーはバートの申し出に「そうだな。お前はいつも遊んでくれてるし。頼めるか。ごめんな。このロープを持っていけ。」「うん。ありがと。これでサラと僕を結んでおりてくるね。」バートはサラに声をかけずにそうっと、しかし早足に階段とハシゴを上がり、すぐ上に着いた。柱が小さく軋む音でサラが振り返って「あっ、バート。」「やあ。サラ、そのまま。じっとしてて。僕もそこに座りたいんだ。いいかい?」いつもと同じように話しかけた。「うん。」サラはニッコリ。「良い子だ。」肩にかけていたロープを手にしながら、サラの横へ行って抱き上げ座って膝の上に乗せると、自分の身体にロープで結んだ。それから「ねぇ、サラ、どうしてこんな所に上がったの?」しっかり抱っこして、やさしく話しかけると「私もママみたいに、ママとパパと一緒にブランコ乗りたい。」ちょっと寂しそうに呟いた。バートは、サラの髪を撫でながら、「そうだね。ママとパパはカッコいいもんね。でも、ここは、」自分が座ってる所をポンポンと手のひらで叩いて「団長が、上がってもいいよって言った人しか絶対にあがってはいけない場所なんだよ。もちろん、僕もまだ本当は上がっちゃいけないんだ。今日は特別。サラを迎えに来るためにね。」「バートも上がっちゃダメなの?大人なのに?」「そうだよ。ちゃんと、厳しい練習をして、お客さんの前で演技を出来るようになった人しか上がっちゃダメなんだ。ここは、公園にあるタワーや、滑り台のてっぺんみたいに、遊ぶ所じゃないからね。わかる?」サラは、事の重大さが、幼いながら少し理解出来たようでうつむいてコクリとうなづく。バートは続けて「ここから落ちたらどうなる?大けがしたり、悪くすると死んじゃうかもしれない。だから、パパとママはサラをすごく心配してる。」そう言ってから、バートは黙ってしまう。「どうしたの?バート。」サラが顔をバートの方に向け、見上げる。「バート、泣いてるの?泣いちゃダメだよ。サラ、もうこんなことしないから、泣かないで。ね。」サラがバートの頰を小さな手で撫でる。「そうじゃない、そうじゃないんだ。ごめんね、サラ。ちょっと待ってね。」サラを抱えていない方の手で溢れてくる涙に目をこすった。


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by kigaruni_eokaku | 2018-12-02 15:15 | Comments(0)
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「増えた?」バートはランチを前にしても、手をつけず、ポツリと呟く。ジャックも一旦フォークを置く。「そうだ。自分が大好きな人が家族として増えた、お前はそう思えばいいんだ。それから、どんな顔していいかわからないって言ってただろう?」「うん。」「とりあえず、その顔は、違うな。」沈んだ様子のバートにジャックがビシッと言う。「そんなこと言ったって・・。」「過去を変えることは誰にも出来ない。お前を育てた母さんがしたことは、バートが申し訳無く思って落ち込む事じゃない。お前がみんなを好きで大事に思っているように、みんなもお前の事を大事に思ってる。『家族』は全員、今回の件で、一番バートが傷ついてるって心配してる筈だ。お前が辛そうにしているのを見たいわけがない。過去は変えられないが、これから先は変えられる。お前次第だ。」「僕次第って・・・。」「団長さんと奥さんのことは、サーカスに世話になりだしてからは、元々親みたいに慕ってたんだろ?」「うん。」「それでいいし、育ててくれた両親のことも、これからも大事にすればいいだろう。どっちもお前にとって、大事、それでいいだろう。何も悩むことない。お前はこれまでと同じように振舞っていればいいっておれは思うけど、ダメか?」バートはジャックをじーっと見て、しばらく考え、「僕が辛そうにしていたら、母さんはきっと、今もすでに十分苦しんでるのに、また何倍も辛くなるよね・・。団長とケイトも、今、僕が辛いのは自分たちのせいだって、変えられない過去を無駄に後悔して、辛くなる・・・よね・・・。」「そうだ。お前の幸せを『家族』は思ってる。でもな、平気なフリはするな。納得して元のお前に戻らなきゃ。」「・・・納得か。」「ああ。自分が引っかかってることはクリアにしていかなきゃな。すぐには無理だろうが、なんか言いたいことあったら聞いてやるから。なんでも言え。」バートは顔をあげて「ジャックって結構良い人なんだね。」「おい。こんな良い人捕まえて、失礼な。おれをどんな奴だと思ってたの。」パシっとテーブルを叩いた。バートは表情を和らげて、「ありがとう。ジャック。食べる。」ちょっと涙目でバートが笑ってランチに手を付けたのを見てジャックもニヤリと笑って、「人の金で食う飯は格別にうまいぞ。」バートの鼻先にスプーンをかざした。「恩に着せないの。」顔を見合わせて笑った。

「えー!?なんでそんなとこにいるのよ!」サーカスでは、マーメイドが顔色変えて、テントで右往左往。学校にいくティムと交代して、サラの面倒を見ていたのが、ちょっと目を離した隙に、サラはとんでもなく高い所に登ってしまい、上から手を振っている。「マーメイド〜、見て見て〜ここはすっごいよ〜サラも、ブランコ乗れるよ〜」「ダメ〜!身を乗りださないで〜!危ないからー!きゃーもうーどうしましょう。」サラはてっぺんでちょこんと座って、脚をブラブラしだす。マーメイドは両手を頬に当てて上を見上げるばかり。「誰か呼んでこないと、でも、サラをほっとけないし!きゃー。」
サラは無邪気にマーメイドにまた手を振った。

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by kigaruni_eokaku | 2018-11-27 21:09 | 物語 | Comments(0)
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ダンとケビンの説明を聞いて、バートは自分なりに身体を動かして、彼らに確認したら、助言の通りのアレンジをきれいにやって見せた。「飲み込みが早いな。」マックスが感心する。「よし。2人とやってみろ。」「はい。」何度かやってもミスなく終えたので、マックスが「おい。すごいじゃないか。でも、なーんか面白くない。」ダンが「おれも。」ケビンも「ああ。お前な、顔が怖い。昨日はあんなにイキイキと良い顔をしていたのに。つまらなそうな顔してる。」マックスが頷き「そうだな。形だけだ。もちろん、失敗しないことは、ケガしないためにも大事だ。けど、それと同じくらい表情も大事ってことは分かってるだろう。形の通り出来る余裕があるなら、もっと、柔らかい楽しい表情、出来るだろう。」バートは真顔のままじーっとマックスを見て頷いた。マックスは軽くため息をついてから「とりあえず、今のお前じゃ、ダンとケビンの時間の無駄だ。一人でイメトレでも筋トレでもしてろ。」マックスの言い方は、意地悪ではなかったけれど、プロ意識が足りないということをバートに投げかける。自分がしていることは遊びではない。観に来る人はお金を出して来てくれるんだから、当然だ。バートは3人に頭を下げ「申し訳ありません。」とだけ言って、その場を離れ、基礎的な動きや筋トレをひたすら繰り返し続けていた。集中する事で今、心を占めていることを追い出せる。
しばらくして、倒立していると、逆さのマックスが見えて「バート、昼だぞ。町に食事にでも行くか。」さっきは厳しかったマックス、本当はすごく心配していたようで、そう声をかけると、バートは倒立から、足を下ろしてまっすぐ立って「あ!そうだ。僕、約束があったんだ。行ってきます。ごめん。マックス、ありがとう。」「そうか。気をつけてな。」走り出して行ったバートを心配そうに見送っていた。
店に着くと、ジャックが外のテーブルで一服していた。「ジャック!」「おう。別に走って来なくても。」「気にしないで。持久力つけるためにやってる習慣なだけだから。」「ふうん。そか。」「ところでどうしたの?なんで僕にランチ奢ってくるの?」「お前、朝、様子が変だったから。ひょっとして、団長、サーカスたたむってか?」「えっ?!」ジャックの言葉にバートは驚いて身を乗り出す。「ん?そうじゃないのか。じゃあ何だ。」「何って・・・。」バートが口ごもる。「言いたくないなら、無理に言わなくてもいいけどな。ま、さぁ、色々あるって。誰だって彼女にフラれることもあれば、財布落とすこともある。」「彼女にフラれてないし、財布も落としてない。」「じゃあ、何だよ。話すのか話さないのか。」タバコを灰皿で消して「ランチ、2つ。」店員にピースサインする。「かしこまりました。」バートが重たい口を開いて「僕がお母さんとお父さんの本当の子供ではないって、今朝言われた。」ジャックは一呼吸置いて「なに?え?それ、本当なのか。」「うん。」「で、じゃあ、本当のお前の親は亡くなってたとか、そういうことか?」ジャックは真剣な表情で問う。「ちがうんだ。本当の両親は生きてる。亡くなったのは、僕、の母さんの産んだ本当の子供。僕の母さんが、その悲しみに耐えきれなくて、本当の両親の所にいた僕を、死んでしまった子供のかわりに連れ去って、育てた。」ジャックは深い息をはいてから「それは、今朝のお前の姿に納得だわ。大丈夫か、バート。」「よくわからない。だって僕の本当の両親は団長夫妻だって言われたんだ。母さんが長年苦しめたのが団長とケイトで、僕は、二人とも大好きで、母さんがしたことが申し訳無いし、どんな顔していいのか分からない。」ジャックはバートの辛そうな様子に「えっ!?そうなのか!?なんでまた。でも、それは、相手が誰でもお前が申し訳ないって思わなくてもいいだろう。」ひどく驚いたのち、ため息をついて穏やかにそういう。「ソフィアにも、そう言われた。そうだ。ソフィアが僕の妹ってことになるんだよ?そんな風に思えないよ。」「そんな風に思えないって、まさか好きだったとか言わないよな?」ジャックは昨夜の二人の事を思い出す。「それは無い。全くない。」「良かった。」この良かったにはジャック的には色々詰まってる。「ソフィアには、僕はなにも失ってないって。そうも言われた。」「おれもそう思う。むしろ増えたんじゃないのか。」店員が運んできたランチに手を付けた。


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by kigaruni_eokaku | 2018-11-23 23:49 | 物語 | Comments(0)
b0314689_22544707.jpeg庭の花は手入れが行き届いていず、所々枯れかけている。樹木もいつも整えられている枝が伸び放題。メアリーの夫であり、バートの父であるジョージがネクタイを緩め、腕まくりをして、庭を整えていた。しゃがんで雑草を引いていると玄関の門扉が開く音がしたので、顔をあげて立ち上がると、帰宅したメアリーが「あ、あなた!」「なんだ。この庭の荒れようは。お前らしくない。見ていられずつい、この状態だ。そんなに忙しかったのか。ん?」ジョージは責めているのではなく、明るい調子で、むしろただ疑問の表情を浮かべている。「あなた、手紙を・・。」「手紙?」「まだ、お読みなってないのですね。」「何のことだ?」テーブルの上にはスーツの上着がポーンと置かれていた。手紙は、その下にあり、ジョージは手紙に気づいていなかった。二人は、家の中に入った。「急に帰っていたからびっくりしました。来週のはずでしたよね、お帰りは。」「ああ、来週は3日ほど居られる。今回はたまたま近くの企業に確認事項の会議があったので、寄ったんだ。だから今夜発たなきゃならない。」メアリーは、ジョージに冷たい飲み物を出した。「ありがとう。ところで、さっき言っていた、手紙というのは、何のことだ。」メアリーは、上着を指して、「その下にあります。読んでもらえますか。」「読めって、お前は、今、いるんだから、話せばいいじゃないか。」「とにかく読んでください。それからお話しします。私はあなたがしていた庭の手入れの続きしますから。」メアリーは外へ出た。「やれやれ。」ジョージは封筒を開けて中の便箋を開き、読み始めた。しばらくして、庭に面した窓を開け、メアリーに「そっちはいいから、部屋に入ってくれないか。」メアリーは、スコップを置き、手袋を外して家の中に入った。「どういうことだ。この手紙に書いてあることは。先方はどうおっしゃったんだ。」ジョージは驚きすぎて、声を荒げるよりも、寂しそうに眉を下げる。「先方は、あの子の籍を返して欲しいと。そうはおっしゃったけれど、あとはバート自身が決めればいいと。」「それだけか?この手紙に書いてあるような、警察への届けや、裁判は?」メアリーは首を横に振って「そういうことは全く望まないと。」「なんということだ・・。」ジョージは天井を仰ぎ、そのまま頭を抱えている。「バートには話したのか。」「はい。今朝。昨日、サーカスへ行って、ここへ帰る前に・・。」「今朝?!」ジョージは驚いて身をのけぞらせた。「あいつは、大丈夫だったのか?」心配そうにメアリーに尋ねる。「あの子は・・きっとすごく複雑な心境で苦しんでるのだと思いますが・・団長ご夫妻のこと、私のこと、周りの人のことばかり気にかけていました。本当に、私にはもったいない息子だと、思いました。私は・・・あの子のその優しさに、打ちのめされました。」「メアリー、あの子が、私たちの子供ではないなんて・・・信じられないよ。お前が里で産んですぐ私はその赤ん坊を抱いて、感無量だった。その子が大きくなったものだと思っていた。ほんのわずかも疑うことなんてなかった。まさか、私が抱き上げたあの子が亡くなっていたなんて。どうして、言ってくれなかった。私がひどく責めるとでも思ったのか。話してくれればお前を支えることもできたのに。」「でも、何年も待っていてやっと生まれた子供を、私の不注意で・・・。」「不注意?何を言ってるんだ。寝ている間に原因も分からず突然亡くなる命をどうやって救えた?お前でなくても誰にも出来はしないのだから、正直に話してくれれば・・・。」ジョージは何歩か部屋を落ち着きなく行ったり来たりしてから立ち止まり、「いや、すまない・・。もっと私が、そばにいてやれたらよかったのに。家をあけてばかりの仕事で。とにかく、今夜発つ前に団長さんに連絡して、私からもお会いしてお詫びをしたい旨を伝える。だからお前はまず、休みなさい。」「ごめんなさい・・・。」メアリーは絞り出すように言った。「メアリー、」「はい・・。」「今度、私を“バート”が・・・眠っている所に連れて行ってくれないか。」メアリーは顔を上げ、ジョージを見つめる。「里に帰る度に、お前が優しくしてやってくれているとは思うが、私も、声をかけてやりたい。・・こんな父親でも来てくれなかったと寂しかったと思ってくれるかも知れない。」悲しく笑ってから、涙をこぼし、メアリーを抱きしめて「本当に済まなかった。君だけが長い間苦しむことになってしまった。」「いいえ。あなた・・・私は弱くてずるい人間でした。それをバートが気付かせてくれました。これからは逃げません。団長さんご夫妻にも出来る限りの償いをしたいと思っていますし、あなたもしたいように、なさってください。離婚なさりたいなら応じます。私はお義父様、お義母様も騙していたのですから。」「そんなことを言うな。私は騙されたなんて思っていない。私を悲しませたくないから本当のことが言えなかったんだろう。本当にごめんな。お前がした事は私も一緒に償って行く。これからも二人で生きていくんだ。バートを団長さんに返しても、私たちはずっと、一緒なのだから。」メアリーはジョージの言葉に声なく頷いて泣き続けた。
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by kigaruni_eokaku | 2018-11-18 14:42 | 物語 | Comments(0)
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バートは、母を送って列車に乗るのを見届けてから、一人、サーカスに戻る道を歩いていた。帰る道の途中のバス停にはジャックがいたが、気が付かずにボーっと歩いていた。「おい、バート。」ジャックの方が声をかけると初めて気づいて「あ、ジャック。おはよう。」バートが返事をした。「朝早くから、こんなとこで何してるんだ?」「ああ、昨日、サーカスを観に来ていた母親を駅まで見送りに来てたんだ。」「そうか。昨夜は、おまえ、すごかったな。おれは、本当に驚いたんだ。やるじゃんか。」「ああ、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。」「なんだよ、マジで褒めてんだぞ。もっと嬉しそうにしろよ。せっかく初舞台を立派にやってのけたというのに、なんだその浮かない顔は。」「あ、いや・・。ちょっと・・ね。」バートが口ごもっていると、バスがやって来た。バスに乗らなければならないジャックが早口で「お前、昼休み、あるか。」「うん。あるよ。」「わかった。昼休みに、ダニエルの店の隣のカフェで待ってろ。昼、おごってやるから。」それだけ言うとバスに乗り込んだ。歩道を歩くバートの横を過ぎて行くバスの中からジャックが手を振ったのも気づかず歩いている。(あいつ、何、ぼーっとしてるんだ。やっぱり変だ。)バートは、母親にはああ言ったものの、まだ、自分の身に起きたことを抱えきれずにいた。(戻ってどんな顔をしたらいいんだろう。)あゆみはどんどん遅くなっていたけれど、じきにサーカスに、着いてしまった。裏門の門扉を開けて中に入ると、もう、みんなそこここでウォーミングアップをしている。ピエロのマックスが「おはよう、昨日はおつかれさん。ダンとケビンが、もう少しショーアップ出来る変更を考えてるらしいから、着替えたらテントの東側においで。」(いつも通りだ。マックスは、何も聞いてないのかな・・・?)「ねぇ、マックス。」「なんだい。」「あのさ、僕のこと・・・、何か、聞いてる?」「何?何かやらかしたのか。」「なにもしてないよ。分かった。東側だね。」自分の部屋へ戻って着替えて出ると、「あ、バート。」ソフィアが犬たちを連れているのと出会った。「おはよう。ソフィア。」「おはよ。聞いたよ、お父さんから。あなたの話。」「えっ。」それ以上何も言えずにいるバート。「びっくりしちゃった。まさか、自分にお兄ちゃんがいるとは。しかもそれが、バートだったなんてさ。まだ、信じられない。」「僕のお母さんがとんでもないことしちゃって、本当にごめん。」ソフィアが笑って、「それ、バートが謝ること?違うじゃない。あ。アレックスか。」「ア、アレックス・・・って、僕の名前・・・?」なんとも言えない表情のバートにソフィアが「そうだよ。父さんと母さんがあなたに付けた名前。でもさ、名前なんて関係ないよね。バートだって、アレックスだってあなたの存在には変わりなし。」清々しくそう言うソフィアに「ありがとう。」とは言ったものの、ソフィアのいっていることは分かっているし、励ましてくれているのも分かっているのに、まだ曇った表情を消せない。「いつまでもそんな顔してないで、元気出しなよ〜。バートは何も失ってないでしょう?失ってないどころか、こんな可愛い妹と、綺麗で賢いお姉さんが出来たわけでさ。」「可愛い妹?」バートが言うと、「そこはいちいち引っかからなくていい所。私ね、また、本番の公演で、演技をしたいって考えてるの。」犬を抱き上げ、撫でながら、ソフィアが言うと「身体は、大丈夫なの?」バートが心配そうな顔をする。「うん、そりゃ、激しいアクロバティックなことはしない方がいいとは思うから、私なりに出来るパフォーマンスを。バートも応援してね。本当はやりたい気持ちと、怖い気持ちが半々・・・なんだ。だから。」バートは表情を和らげて、「ソフィアなら、出来るよ。」「その顔だよ。バート。さぁさぁ、早く行かないと、ダンとケビンに雷を落とされるわよ。それ行け〜!」ソフィアがバートの背中を押した。
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by kigaruni_eokaku | 2018-11-14 22:44 | Comments(0)
「困ったなぁ。でもとにかくもう、泣かないでよ。母さん。」バートはメアリーにハンカチを持たせた。「さっきは大声出してごめん。大丈夫?大丈夫じゃない、よね。」食事に手を付けないメアリーに、「母さん、食べて。ね。団長とケイトには、僕からも謝るから。」(この子が、謝る?)メアリーは顔をあげて、先刻、バートが団長とケイトに真実を話した時の様子を必死に尋ねたのは、彼らのことを心配してのことだと思っていたが、もちろんそれもあっただろうが、それよりも更に、メアリー自身が二人に責められて辛い思いをしたのではないかと心配してくれていたのだと、改めて気づかされた。言葉が出てこなかった。「団長とケイトが、して欲しいように、するよ。母さん・・・。それでいいよね?」「バート、・・・。」「僕は・・・僕だから。大丈夫だから・・・。」(この子は私がしたことの罪を一緒につぐなうつもりだ・・・。そんなことはさせられない。)「大丈夫じゃないわよ!母さんが甘えてた。ずっと。あんたにも、お父さんにも、・・それから団長さんと奥様にも。あなたは、あなたがしたいようにすればいい。団長さんも最後はそうおっしゃったの。」「母さん・・・。」泣くのをやめた母親の顔を、バートは驚き、目を大きくして見つめた。「あなたが、背負う荷じゃない。つぐないは、私だけがすることだから。」バートは冷めたコーヒーを少し飲んでから、「母さん、僕にだってできることがある。一人で背負わないと約束して。」真っ直ぐに母親を見てそう言う息子に、ジムとケイト、それからバート自身にも酷い裏切りをしたそんな自分にまでやさしさを示せるこの息子は、自分には勿体ない息子だと、メアリーは自分の弱さを恥じて、気を強く持ち直し、バートの手を握り涙を浮かべて笑った。

サーカスでは、団長のジムがディアナと夫のエディー、ソフィアを自室に呼んでいた。ソフィアが「父さん、何か改まった話?」ソファーにすとんと座った。ジムは深呼吸してから「アレックスが見つかった。」その一言にピンときたのは、ディアナだけだった。「お父さん?アレックスが見つかったって、どういうこと?いつ?どこで?もう会ったの?」立て続けに質問した。ソフィアは「アレックスって?」キョトン顔で問う。エディーも同様に首を傾けている。ジムは三人の方を向いて、「ソフィア、おまえの兄さんだよ。ディアナが6歳の時に忽然といなくなった、私の息子だ。」「えぇ?!」ソフィアは横に座っていたディアナの腕を思わず強く掴む。「ソフィア、痛いよ。」「あ、ごめん。私が生まれるずっと前だよね?」ジムがいきさつを話すと、「お姉ちゃん、知っていたのに、なんで言ってくれなかったの?」「それは、お父さんお母さん、当時の団員さん、みんなで話し合って、捜査は続けるけれど、アレックスはローズおばさんの所に元気で暮らしているということにしようと決めたから。それ以上は聞かないし、話すことはなかったの。もう、会えないかも知れないって思っていたし、本当に悲しかったから。」ソフィアは当時のまだ幼かったディアナの気持ちを思い、切なくなった。「それで、アレックスは・・?私たちも会えるの?」ソフィアが恐る恐る尋ねた。ジムは頷いて、三人を一人ずつ見て「バートが、アレックスだったんだ。」「バ、バート!?」ソフィアの声がひっくり返る。続けて、「じゃあ、バートが私のお兄ちゃんってことになるの?」ジムは首を縦に振り「そうだよ。そういうことになるね。」「バートが、お兄ちゃんだなんて、今更、思えないよ。」ジムはソフィアの肩にそっと手を置いて、「思えなくても、それは当然だろう。仕方がない。」ディアナはしみじみとした様子で「・・見つかって、よかったよ・・。私も肩の荷が下りたよ。誰にもずっと言えなかったけど、辛かった。あの日、私がお母さんを困らせずに大人しくしていたら、アレックスの面倒を見ていたら、と後悔ばかりしていたから・・・。アレックスが怖い目に遭っていたらどうしよう、どこかで寂しがって泣いているかも知れない、って考えて、子供の頃、夜に幾度となく泣いていた。サラが生まれてからは、もっと深い意味を持って、私の中で強く引っかかるようになって。」話を聞いていたエディーが、ディアナの肩を抱き「バートが・・その時の、アレックスだっただなんて、信じられないけど、もうディアナは苦しまなくて良くなったんだね。辛かったんだね・・・。」ディアナが声を出さずに泣き始め、エディーが慰める。「お義父さん、事情は分かりました。僕らは一旦、自分たちの部屋に戻らせてもらってもかまいませんか。」「ああ、構わないよ。すまないね。急に呼び出してこんな話をして。」「いえ・・。」ジムはディアナを気遣って「もし、今日のプログラムを変えるようなら、そうするから言ってくれ。」ディアナは顔をあげ、「・・お父さん。心配しないで。私なら、できるわよ。」それだけ言うと、エディーと部屋を出た。
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ソフィアとジムが残り、「ね、父さん、私、バートが自分のお兄ちゃんだなんて、すぐにはちょっと思えないけど・・・どっちかって言うと弟みたいだし、でも、どこの誰がお兄ちゃんになるより、バートならいいかなって。お兄ちゃんが、バートで良かったよ。」それだけ言うと、部屋を出た。

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by kigaruni_eokaku | 2018-11-11 17:41 | 物語 | Comments(0)
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初舞台を無事におえた翌朝、バートは母親と駅までの街路樹が美しい、石畳の道を歩いていた。まだ、朝が早いので、ひと気は少ない。バートが「昨日は眠れた?狭かったでしょう?ごめんね。」そう言うと笑った。メアリーは浮かない顔をしながら少し笑みを作って、「あのね、バート・・・。」「どうしたの?」「駅に着いたら、あなたに話がある。」笑みは消えていた。
駅に着いて、カフェテラスで朝食を前に、手を付ける様子もなくメアリーは「バート・・・、母さんは、あなたの本当の・・・親じゃない・・・。」「それ、何の冗談?」バートはゆで卵をテーブルにぶつけて殻をむく手を止めないで笑っていた。「あなたが赤ちゃんの時・・・、他の人の所にいたあなたを・・・私が、自分の子供にしてしまった・・・。」母親の口から出た言葉がにわかには飲み込めず、ただ手を止めて「母さん、どういうこと?わかるように、言ってくれる?」メアリーは当時の自分のこと、耐えられない悲しみに死のうとまで思っていたことをバートに話し、「もし、あの時、あなたが泣いていなかったら、私はあのまま死に場所を探していたと思う。」そう言った。「母さんが辛かったのは分かるけど、じゃあ、僕の、本当の両親は・・・どこの誰なの?」バートがすっかり顔色をなくしているのを見て、メアリーは俯いて泣きながら「ごめんね、ごめんね。母さんが悪かった・・・。」「ね・・・誰?僕の両親は。母さんっ!知ってるんでしょう!?」立ち上がってメアリーに強く言うと「あなたの本当の両親は、ワンダーランドサーカスの団長さん夫妻・・・。」バートは驚きすぎて危うく床に尻もちつきそうになるのを、さっきの大声で立ち止まっていたウエイターがとっさに支えた。「大丈夫ですか?」「す、すみません。」椅子を確認してから座り直し、声のトーンを下げて「団長とケイトが!?僕の両親!?って母さん。えっ!?」バートはコップの水を全部飲んで、大きな息をして「なんでそんな・・・今まで黙ってたの?母さん・・・。団長とケイトは知っているの?」「ええ・・・。昨日、お伝えしたわ。」「二人はなんて?」「え?ああ・・・」メアリーは、バートが自分の身に起きたとんでもない状況より、団長とケイトを心配しているのが分かり、「申し訳ないと思ってる・・・。」噛み合わない返答をすると、バートは「母さん!母さんが死にたくなるくらい自分の子供が大切で、失って辛かったのと同じように、きっと、団長とケイトも同じだったんじゃないの?なんで・・・そんなことしたんだよ・・・。」バートは頭を抱えうつむいて唇をかみしめた。「私は、どうかしていた。あの日・・。みんなの人生を狂わせた。団長さんと奥様にはどれだけお詫びしても足りない・・・。あなたを返してほしいと言われたわ。」バートが顔をあげて母親を見ると、ずっと苦悩の表情で唇を震わせ、真っ赤な目をして涙を落としていた。

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by kigaruni_eokaku | 2018-11-04 21:23 | 物語 | Comments(0)

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