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明日のチケット(第41話)雪雲劇場2

ダニエルの店を出たステファニーは、歩きながら、カバンのポケットからさっきジャックと分けたキャンディを一つ取り出して、口に入れた。(わ。すごい。食べたことないわ。こんなに美味しいキャンディ。)足早に歩いていたステファニーだったが、キャンディのほのかな香りとやわらかな甘さを味わいながら、店でのジャックとの会話、気遣い、楽しかった時期のことを思い返して行くほどに、あゆみは緩くなった。(私は・・・ジャックを今でも大好きなんだ・・・。)キャンディと同じくらいの大粒の涙が溢れて頰を伝った。たまたま自分の方に向かって歩いて来ていたおじいさんが驚いて、シワに囲まれた小さな目を見開いた。お嬢さん、大丈夫ですか、とでも言いそうな様子になったので、慌ててすぐそばに止まっていたバス停のバスに飛び乗り、一番後ろの席に座ってサングラスをかけた。涙はポロポロと溢れて、止まることはなかった。二つ目のキャンディを口に入れて、頰をハンカチで押さえた。(このバス、どこへ行くんだろう。)夏はもう終わりを告げているが、並木道の木の葉は、まだ差す光をいきいきと浴びて窓の外を流れて行く。(きっと、ジャックに再会しなかったら、見ることのなかった新しい明日に行くんだわ。彼がくれたこのキャンディのように今日より甘くて優しい明日に。)ステファニーはサングラスを外して、窓を開けると涙は風に飛ばされて行った。

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ジャックは、ランチを終えて店を出てから、グリーングラスという会社に向かっていた。それは、サーカスに行った時に見かけたあの、ガラス細工のオルゴールがきっかけだった。何度も団長の所に足を運ぶうち、いきさつを聞いて、ジャックにはちょっとした考えが浮かんでいた。大きな会社の受付で、担当者に会うために名刺を出していた。「本日はどのようなご用件ですか。」「新しい資金の使い方で御社の宣伝の機会を大きく開くお話です。」「かしこまりました。それでは担当の者を呼びますので。少々お待ちください。」「あの、この写真をみてもらえますか。」ジャックは、団長の所にあったガラス細工のオルゴールの写真を出して見せた。女性は少し笑みを浮かべて「ああ、これは会長の。」「会長?」「はい。これは会長の作品です。」「会長の作品?こちらにはないのですか?」「はい。弊社では建築物用ガラス、特殊ガラスなどの工業製品、そして一部家庭用品がお取り扱いの商品となっております。」「じゃあ、これはどこにあるのですか。」「会長の工房です。会長が個人的にされている創作活動、ということになると思います。」と、背後のエントランスで数人のいかにも重役そうな人たちが話しながら歩いてきた。その中に、見覚えのある顔があった。会社のパンフレットに載っていた、今、話題にしていた会長だった。受付の女性も立ち上がり、頭を下げる。ジャックは受付の女性に軽く頭を下げると、会長に駆け寄り、「突然失礼します。私、こういう者ですが、ほんのすこしだけお時間をいただけませんか。」渡された名刺を読み上げる「パークヒルズ銀行、融資課、ジャック・フェリーくん?なら、経理課、じゃないかね。私じゃなくて。」そう言って立ち去ろうとする会長に、「会長、この写真を見ていただけませんか。」会長の歩みを遮ったジャックに秘書らしき男性が憮然として間に入り「会長はお忙しいので、お話は経理課へお願いします。」会長はジャックが持つ写真が気になって、見つめる。「これは、私がジムに作った作品だよ。」懐かしそうに笑う。「そう、そうなんです!そのジムさんが団長をしている、ワンダーランドサーカスについてのお話なんです。」「何?ワンダーランドサーカスの?」そう言ってから、秘書と重役に「悪いが、私の会議参加はこの話が終わってからにさせてくれ。みんなは先に会議室で進めておいてくれ。」「わかりました。」納得いかない顔をしながら、取り巻きの重役たちは、会長から離れた。
会長は、エントランスから、人とあまり顔がささない、廊下の横のついたてのあるミーティングスペースにジャックを案内して、「どういうことだね。」興味深そうに尋ねる。「お忙しいと思いますので手短にお話しします。今、ワンダーランドサーカスは、深刻な財政難です。私はサーカスの融資担当ですが、頭を抱えています。そこで、グリーングラスさんのような、優良な企業さまに、サーカスの協賛をして頂けないかと考えた所存です。」「なるほどね。で、私のメリットはなんだね。」「御社の企業イメージがますます上がります。夢のある企業だと。これ、企画書です。どうか、ご一考ください。では。お時間を頂戴いたしまして、申し訳ありません。」先にジャックが立ち上がる。「わかった。考えておきましょう。良い返事ができるかどうかはわからないけどね。会社というものは、私の自由にはなりませんからね。」冗談ぽくそう言って品良く笑うと会長はジャックの肩をポンポンと叩いて、エレベーターの方へ歩いて行った。

by kigaruni_eokaku | 2019-01-20 22:16 | 物語 | Comments(0)

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