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明日のチケット(第37話)雪雲劇場2

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「ありがとう。バート。嬉しい。」「ほんと?」「うん。」バートはアリッサの返事に向かい合うと、両手を握ってブンブンと振って子供のように喜んでから、ハッと我に返って、苦笑した。「喜びすぎだね。あんまり人がいなくてよかった。」とっぷりと日が落ちて、ランプが照らし出す歩道はあまり人通りはなかった。「ふふふ。そうね。でも、私もバートみたいに、宙返りとか出来たらしたいくらいよ。」アリッサが頬を染めてちょっと照れてそう言った。二人は楽しく会話しながら、歩いていたら、あっと言う間に時間が経って、気づけばアリッサの家にほど近い細い川添いの道を歩いていた。小さな橋がかかっている。「あの角の建物が私の家。1階はお父さんの会社なの。」「ふうん。」橋を渡り、アリッサに続いて建物の端の階段を上がると、玄関があった。「ただいま。」アリッサの声に「おかえり。」母親と父親らしき声が一緒に聞こえた。母親が玄関に来て、「あら。」娘と一緒にいる見知らぬ青年を見つけた。母親と目が合ったバートは「こんばんは。はじめまして。ワンダーランドサーカスで働いてるバート・フォックスといいます。」礼儀正しく挨拶すると、今度はアリッサが「ここまで送ってくださったの。」するとお母さんが、「ああ!あなた、もしかして、この子に勉強を教えてくれてる人?」「あ、はい。」明るいお母さんに、バートは若干キョトン。「ありがとう。この子の成績、すごく上がったから、驚いてるのよ。本当、ありがとう。お夕飯は?まだでしょう?食べて行ったら?そんな大したものはないけど。ねー、あなた。」お父さんにも声をかけるお母さん。「お、ああ。ふたりともそんなところにいないで、入りなさい。」「は、はぁ。ありがとうございます。でもまだ、サーカスに戻ったらしなくてはいけないことがありますので、お気持ちだけ。」バートはニッコリと笑って頭を下げた。「そうかい?それなら、エレン、何か帰って食べられるようなものを詰めてあげなさい。」「はいはい。もちろん。そこへ掛けて待っててくださいね。」アリッサがバートにソファーを勧めた。父親は仕事を終えてキッチン側のスツールでお酒を軽く飲みはじめたところといった感じだったので、グラスと、ボトルを持ってソファーの方にやってきて、「どうだい、少し。」「ごめんなさい。僕、お酒は。」バートが申し訳なさそうに首を横に振っているのを見てアリッサが、「バートはサーカスで誰もが認める一人前になるでは飲まないって決めてるんだって。」お父さんは持っていたグラスを置いて、「そうなのか。若いのにしっかりしてるんだね。アリッサと来たらいつまでも子供の落書きみたいな洋服の絵ばかり描いて、将来一体何をしたいか」「ファッションデザイナーよ。お父さん。」アリッサは父親に言い返して口を尖らせる。父親は呆れたような口調で「お前がそんなものになれると思っているのか。」そこまで言ってから今度はバートの方に向き、「うちの家業が、生地見本を作ったりクライアントの依頼に応じてあちこちの工場から服地を探したりすることなのでね、この子が小さい時から身の回りに、生地の見本帳がいっぱいあって、それをおもちゃ代わりに千切って遊んでいた延長で、そんなことを言ってるんですよ。」「そうなんですね。でも、時々彼女がノートに描いている絵はとても上手ですよ。」お父さんは苦笑いしながら、「そうですかー?」と、母親がキッチンから、出てきて「出来ましたよ。お口に合うかどうかわからないけど、どうぞ。帰ったら召し上がって。アリッサ、はい。」赤いギンガムチェックの布の包みを紙袋に入れてアリッサに手渡した。ほろ酔いのお父さんが「今日は娘を送っていただいてありがとうございました。そのうち妻と、君のサーカスを観に行くよ。」そう言ってバートに握手してきた。「ありがとうございます。では、できるだけ早く観にいらしてください。僕たち、もうすぐ別の遠くの街に行くかもしれないので。では。お母さん、お気遣い、すみません。ありがとうございます。失礼します。」「おかまいなしで、ごめんなさいね。」扉を閉めると、アリッサから紙袋を受け取った。「ね、バート、遠くの街に、行っちゃうって、ほんとなの!?」アリッサは無意識にバートの腕を両手でぎゅうっと掴んでいた。
by kigaruni_eokaku | 2019-01-04 20:46 | 物語 | Comments(0)

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