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明日のチケット(第35話)雪雲劇場2


明日のチケット(第35話)雪雲劇場2_b0314689_21550036.jpegアリッサは席に着くと開演をソワソワとしながら待っていた。ピエロのマックスが彼女のそばを通りがかり、「あっ、君は。」アリッサの方はピエロのメークのマックスを見てもすぐにはピンと来ず、しばらくじっと見てから、「ああ。もしかして、昨日、チケットを・・。」「そうだよ。ありがとうね。バートの友達なんだってね。」「えっ?どうしてそれを?」「君が帰った後にすっごい慌てて出て行ったからね、あいつ。」笑うマックス。(そう・・だったんだ・・。)アリッサは少しうつむいて口元に笑みを浮かべる。マックスはそんな彼女の様子に「手拍子、足拍子、声援、何でもOKだから、一杯応援してやって。バートのこと。」そう言うと、風船で出来た小さなプードルをくれて、近くに座っている子供達のいる方に踊るように走って行った。まもなく照明が落ち、華やかな音楽と団長の挨拶でいつものように幕が開いた。出演者一同が顔を揃えて音楽の中をお客さんの拍手に応える。アリッサは、バートを探した。バートは割と端の方でダンとケビンと一緒ににこやかに手を振っていた。アリッサはその堂々とそして楽しそうなバートの姿に見入っていた。サーカスのプログラムは前回アーサーと見た時とほぼ同じだが、所々違っていた。もちろん、あの時はバートもまだ出ていなかったわけだから。いくつかのプログラムが過ぎた。バートの出番を待ち受けるアリッサの目の中に、暗転の中の3つのスポットライトが映り、その中の1つにバートを見つけた。クールなドラムのビートに合わせて登場すると、場内から拍手、そして手拍子が起こる。難しいジャグリング、アクロバットを2人と一緒に次から次へよどみなく華麗にこなしていくバートの演技にすっかり引き込まれて行くアリッサ。(すごい。すごい。すごい。)そしてとうとうバートたちのプログラムの最後テディベアバズーカのパラシュートには、あっと手を伸ばしたけれど、残念ながらアリッサのところには届かなかった。バートは、ダンとケビンとともに、最前列で手を上げていた人達とリズミカルに笑顔でハイタッチをしてコミュニケーションしながら駆け抜けて退場して行った。アリッサはこれ以上出来ないくらいの拍手をしていた。
アリッサはバートと知り合って、特殊で高度な技術でのパフォーマンスの団員さんたち、たくさんの動物たちの面白く見事な演技を見ていると、初めて見た時とは違う気持ちが芽生えていた。一生懸命技を磨くこと、動物を根気よく調教したりすること、本番に間違うことなくお客さんを楽しませるレベルまで持っていく、様々な並大抵でない努力の積み重ねによってこの夢みたいなエネルギッシュな世界が出来上がっているのだと感じていた。
全てのプログラムが終わり、盛大な拍手に包まれて団員がみんな退場して行く中、マックスがさりげなくアリッサに駆け寄り、「終わったら、キャンディー屋の前にいて。」そう言ってウインクすると去って行った。(キャンディー屋の前?)アリッサがマックスの伝言通りに外へ出て、キャンディー屋の前に行くと、ティムとソフィアが片付けを終えて、周囲を掃き掃除していた。「こんばんは。」ソフィアが挨拶して来たので「あ、はい。こんばんは。」緊張気味にアリッサが返事をするとティムが「おねえさん、バートのファンなの?ううーん!」そこまで言ったところでソフィアが後ろからティムの口を押さえてそれ以上喋るのを制止して、アリッサに苦笑い。じきにバートが着替えて出て来た。「アリッサ!」「やっぱりー!」ティムが指差してそう言うのをソフィアが肩を抱えて引きずりつつ「子供は寝る時間!今日もおつかれっ!ティム、行くよっ」テントの方へ行った。
「見にきてくれたんだ。ありがとう。」アリッサはマックスがバートに自分の事を伝えてくれたんだとわかった。「ありがとうは、私の方。」「どうして?」「すごく感激した。バート、すごい。」「ほんと?それは嬉しいな。まだまだだけどね。」屈託無く笑うバートにアリッサが「あのね、ハイタッチ、してほしいの。」両手を上げる。「え?」「私の席は、前でも通路側でもなかったから、団員さんとハイタッチとかできなくて、羨ましかったの。」クスッと笑ってバートが「なるほど。いいよ、じゃあ、ハイタッチ!」パチンと両手を合わせて二人で笑い合うと、そのまま彼女の両手を握った。思わず彼女を引き寄せて抱きしめてしまいそうになるのをぐっとこらえた。

by kigaruni_eokaku | 2018-12-26 20:58 | 物語 | Comments(0)

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