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明日のチケット(第33話)雪雲劇場2

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幾日か過ぎて、夏の終わりの雨が公園の木々や、道を濡らす午後、サーカスの広場の手前の公園の屋台のカフェスタンドで傘を閉じる学校帰りのアリッサ。カフェスタンドのオーナーのマシューが先に声をかけた。「こんにちは、アリッサ。預かってるよ。ノートを。」「ありがとうございます。」優しい口調のマシューは60代の半ばくらい。オシャレなシャツとベストにエプロンをして、グレーの髪にベレー帽をチョンとかぶっている。「なかなか会えないね。」バートとアリッサは、アリッサの下校時間に合わせて、20分だけ、ここで待つ約束をしている。どちらが来れなくても恨みっこなしの約束。会えない時は、来れた日にマシューにノートを託す。アリッサが学校で分からなかった所を書いておくと、バートが解き方のヒントや、参考になることを書いておいてくれる。メッセージもちょこっと書いてある。「忙しいから、仕方ないです。それなのにいつもちゃんと丁寧に、書いてくれてる。」アリッサはノートをパラパラと繰りながらちょっと寂しそうに首を傾けた。「ホットココア、特別にご馳走するから、お飲み。」マシューはニコッとして、コースターをアリッサの前のカウンタースペースに置く。「あ、いえ、そんな。お支払いしますから。」恐縮するアリッサに「いいからいいから。おじさんは可愛い子に弱いの。」冗談ぽく言うと、奥にある棚からカップを取りながら、サーカスのポスターを見て「あっ!そうだ、アリッサ、バートがとうとうサーカスの本番の舞台に出たらしいね。聞いてるかい?」「いえ・・。聞いていません。そうなんですか?」「うん。ああ、まだ新米だし、お試しみたいな口ぶりだったから、ちゃんといつも出られるようになったら君に言うつもりだったのかな。」ああ、と納得するような表情をして「だから、忙しいのかな。」アリッサはサーカスのある広場へ続く道をボンヤリと見た。「はい。ココア。」マシューの声でカウンターに向き直り、「あ、はい。じゃあ、ご馳走になりますね。」優しい心遣いの味のホットココアを飲みながら、几帳面なバートの字が並ぶノートをめくり、読む。アリッサはココアを飲み終えるとマシューに「ありがとうございます。ごちそうさまでした。」お礼を言って傘を広げると公園の出口の方向ではなく、広場の方へ向かおうとするのを見て「行くのかい?」柔らかく微笑んでマシューが声を掛けると、照れ臭そうに少し笑ってからだまって頷いて歩いて行った。(行ったって、会えないのは分かってるけど・・・。)アリッサの足は勝手に動いていた。
サーカスのお客さんが入る入り口はもちろんまだ閉まっていて人の気配がない。雨だから外で体を動かす者もいない。少し周辺を歩いていると、バックヤードのゲートが見えて、誰かが買い物から帰って来たようで、紙袋を抱えて足早に入ろうとするのを「すみません!あの!」勇気を出して声をかけて引き留めた。引き留められたのはマックスだった。(まさか・・・お呼び出しって・・わけにもいかないし・・でも・・。)しばらくアリッサが黙ってると「ん?誰かに用?」マックスがとっつきやすい明るい口調で、緊張してるように見えるアリッサに話しかけた。「あっ。その・・。明日のチケットを売ってください。」「えっ?今日のじゃなくて?明日の?」マックスが聞き返すと「はい・・私、学生ですし、親に言わずに夜出かけると心配をかけるので、今夜話してから、明日、観たいんです。」マックスは笑って「ああ、そういうことね。OK。1枚でいい?」「はい。」「ちょっと待ってて。」マックスが中に走って行って戻るまで、アリッサはずっとドキドキとしながら雨音を聞いていた。

by kigaruni_eokaku | 2018-12-11 21:10 | 物語 | Comments(0)

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