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月と花【第9話】雪雲劇場

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御者が、思ったより早く屋敷に戻って来たので、アルベールは、「どうしたんだ?早いな。」声をかけると「お嬢さんが、ご自宅よりも随分と手前の森の入口で、どうしても降ろして欲しいとおっしゃいましたもので・・・。」「なんだって?どうしてそんな所で降りるんだ。」「私もお止めしたのですが・・・、何か必死なご様子でしたので・・・。」アルベールは、マリーの切なげなあの表情の理由がそこにあるのかもしれないと直感して、御者に「悪いが、今からすぐに僕を彼女を降ろした所まで連れて行ってくれないか。」「は、はぁ。」御者はなぜアルベールがそんなことを自分に頼むのかよく分からないまま彼の言う通り、同じ場所に連れて行きました。森の入口は夕刻の明るさをわずかに残しながら、月が出ていました。なんとなく目の前の道らしきものを選んで奥へ進んで行きました。しばらく行くと、その先は細くなって、高い下草を払いながら更に進んで行くと、人の声がしました。少年とマリーです。ちょうど名前の話をしているところでした。(そういうことか・・・) アルベールは、マリーが好きなのはあの少年で、自分に求婚されたことは、本当は困っていたのだと分かりました。しかし、先程アルベールが、彼女に渡した花嫁衣装の入った箱と、お金の入った袋は、汚れないように、草の上に広げられた彼女のエプロンの上に置かれていました。それはそれは大切に。
その様子はマリーが決して自分との結婚話をいい加減に考えていないことが十分すぎるほど伝わり、アルベールはマリーのことがもっと好きになりました。そして、心から幸せに笑っている顔が見たいと思いました。
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少年は眉を下げ、「名前を誰が付けたか分からないってどういうこと?きみは孤児院にいたんだよね?」「そうよ。その前のこと、話していなかったわね。私は、どこかの混雑した食堂に誰かと一緒に来ていて、置いていかれたらしいって、院長先生が言っていた。私は自分の名前なんてまだ話せないくらい 小さかったし、その時の事はほとんど覚えていない。だから、孤児院に入るときに、誰かに適当に付けられた、名前なの。でも、名前がないあなたに比べたら、ぜいたくよね。ごめんね。」少年は理由が分かって「謝らないで。誰が付けたって、構わない。きみのこと、呼べるんだもの、素敵なことだよ、マリー。元気出して。」そう励ましてくれました。そんな風に考えた事はなかったので、溢れそうだった涙が止まりました。こんなに優しい少年には名前がない、そのことが気の毒で、「どうして、あなたは名前がないのか、やっぱり聞いてはいけないの?」「・・・話せないんだ、ごめんね。」絞り出すように少年はそう言いましたが、マリーは、「そう。分かりました。あのね、私、いいのよ、ずっとここにいるし、何も聞けなくても、どうなっても。」「どうなっても?」少年はマリーの最後の一言がひっかかりました。
〜つづく〜


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by kigaruni_eokaku | 2018-08-13 17:17 | 物語 | Comments(0)

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